伝え人の物語

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臼井成生(うすい しげお)

伊勢木綿製造・販売 代表取締役社長

工芸名
津市 伊勢木綿
地域
中南勢
  • インテリア雑貨
  • ファッション
  • 文具
  • その他
  • 布製品

Q:伊勢もめんの歴史についてお聞きかせください。

A:伊勢もめんというのは、室町時代末期に日本へ綿が伝来されました。それと同時多発的に三河、河内、伊勢で等の大きな河川があり肥沃な平野と労働力のあるところへ綿の育成が始まりました。日本国内ほとんどのところで絹や麻の織物が盛んであったため綿を糸にさえできればすぐに綿織物ができました。当地方では伊勢紬という絹織物や、津綟という麻の織物が有名でした。津綟って言うものをごぞんじでしょか?

Q:知りません。つもじは何でしょう?

A:津綟(つもじ)っていうのは、夏の裃の生地。豊臣秀吉が検地をしたときに当地清水村の税金があまりにも高かったた、その代わりにもじり織というのを特産品として当地だけのものと認めてもらった。その後、藤堂藩の財政を潤すまで生産を伸ばした。

Q:素材は麻がですか?

A:そうです、先ほども言いましたが津綟という複雑な織物や伊勢紬という高級品などの産地であったためわたを糸にさえできればあッという間に生産は拡大しました。綿のタネは記録によると奈良時代、鎌倉時代にも日本に入ってきたのですが育成がうまくゆかず定着したのが室町時代末期だと聞いています。
それまでは、織物として輸入されたり、糸で日本に入ってきて大変高級品で庶民の手に届かなかったようです。

綿づくりにはいろいろな条件があります。大きな河川がある肥沃で広大な土地。目の前でイワシが取れることなど。水と冬場の肥料が必要でした。海岸の近くは、綿の育成に適していました。山間部、亀山や高岡あたりは絹の生産に適していました。

最初は農家の副業みたいな形でしたが、早い段階で、江戸時代初期にはもう川喜田商店や田端屋という津から江戸に大店を張る木綿問屋やがありました。川喜多商店の旦那が川喜田半泥子さんでした。

Q:川喜田半泥子氏は、銀行の頭取や陶芸家として有名ですよね?

A:明治に入るころ国からの命令で銀行をやれっていうことで銀行に変わったようです。
日本橋で大店を張っている川喜多商店や田端屋さんへ伊勢の国から木綿が来ていたため、伊勢木綿といわれるようになりました。

Q:津市は伊勢の国ですよね。

A:伊勢の国では桑名縞、富田木綿とか白子木綿など細分化しといます。

日本橋に送るものは丁寧に織っていたと聞いています。その残り糸でおったものが自家消費用になっていたようです。しかし、一時的に津綟が藤堂藩の財政を潤していたわけです。津綟がいそがしかったため、いっとき木綿の生産は減ったけどもまた江戸時代中ごろ以降より復活し、明治に入ってから豊田佐吉さんが機械売りに来たりとかして、どんどんどんどん生産が上がっていった。明治・昭和・大正初期それから戦争後良い時代がありましたが昭和40年台に円の自由化や海外との競争などにより一気に国内の生産は減ってしまいました。国内の繊維製品はもういらないと。そういう時が来たわけです。この辺にもあったたくさんの織物工場は一気になくなってしまいました。松本商店という織物屋さんは岩崎病院になり、富田屋さんは上浜団地になりました。
こんな小さな町に大手の紡績であるオーミケンシ、中央毛織、それから倉敷紡績、三重紡績、四つも五つもあるわけ。

たいがい普通のところは1都市に1社なんよ。それくらいここは繊維の街でした。

うん、みんな忘れてしまっとるけどもね。

ほとんどが戦争中は軍事工場だったため空襲で叩かれました。津市は市街地の99%焼けました。オーミケンシの女工さんが避難した防空壕に直撃弾が落ち亡くなられたことも石碑が立っていることで記録しています。そのオーミケンシも現在団地になっています。

Q:臼井織布さんの歴史についてお聞かせください?

A:江戸時代中頃に、三つ寺というところにいたそうです。亀山と津市の境くらいに。そこから出てきました。そこの三ツ寺は臼井姓ばっかりだそうです。このへんの臼井っていうのはだいたいそこから出てきた人が多かったようです。今はもうかなり他のところから来とる人も増えとるけどもね。このへんで藍染め屋をはじめたんよ。江戸時代の中ごろ。藍染め屋っていうのは糸を染めて農家に持っていて、その当時は農家に持って行って織ってもらって、それを回収してそれでそれをまた売りに行くっていうことをしていました。江戸時代の終わりくらいになって、手織りの機械置いて、近所の人に作業していってもらう。まぁ工場生産の形になってそれが延々として続いてるのです。

Q:特にその織物としての技法に特徴はありますか?

A:今の皆さんが着てるTシャツとかそういうものは撚ってある撚糸でできています。当方の木綿の糸は軽く撚っただけですのですぐに綿に戻ろうとする柔らかい糸です。それと、未だに木綿問屋っていうところを相手にしてるんで、品質面でも手抜きできないです。伝統工芸品というよりも産業に近いところを考えていますので、色落ちなどにも注意しています。

Q:濡れても色落ちしないのですか?

A:一般的に買ってきた商品が激しく色落ちしたら市場から抹殺されますね。

Q:風合いとかがいいですよね。

A:風合い?使う糸が違うのでまったく違います。

Q:伝統を引き継ぐということについてどう考えられますか?

A:伝統っていうのはさ、守っていくものでなく、新しく作っていくものだと考えます。守りに入ったらその産業が潰れるし。守りに入ったらそれで終わりです。伊勢木綿としての基本は守ってゆきますが。

産業として残らなかったら、残らないです。だから木綿を生産して生活ができるかどうか。
生活ができなきゃやめる。採算とらんならやめるよ。

やめたらええんや。やめる。しょうがないよ。みんなやめたんよ。
福井でも、西陣でもみんなやめたんや。

Q:みなさんやめている中でひとつ残っている理由は何でしょう?

A:ひとつ考えたのは、現在の生産設備。億単位のお金かけてもできない、今うちは100年前の機械やから。

Q:今後についてなにかお考えはありますか?

A:何も変わらない。うん、こうやって一生懸命に売っとく。だからその今はその布織ることだけに特化してる。だから私のところのこれ。

Q:海外に対してなにか考えはおありですか?

A:そりゃやりたいよ。イタリアで布の展示会に出したい。イタリアの布の展示会とかやったら行きたいよ。

Q:なぜヨーロッパですか?

A:物を理解できる。糸を染めてから織る手間を知ってる。うん、価値がわかってる。アメリカは全部プリントやろ?

ヨーロッパの場合、染とか織るとかは北イタリアでちょっとやっとる程度で。あとは全部スペインでプリントしとるやろ。だから、北イタリアでそういう糸を染めてから織る。あっこも、100年前の機械使っとるから。そういうところの人がこれを理解できる。

Q:伊勢木綿の柄のデザインっていうのはどうされていますか?

A:昔からの柄を使ってる。

Q:新しい柄ではないんですね。新しく考案したりとかはしていますか?

A:ではない。してない、できない。 私はデザイナーとは違うから。そういうことはできない。だから昔の柄を持ってきて、ちょっと色を変える程度。

Q:そういうことをしたいというデザイナーがいたら頼みますか?

A:いや、そんなのできないと思う。日本のその100年、200年前のデザインを使う以外に、新しく考えてやった場合はすぐに廃れる。すぐに飽きがくる。100年、200年間ずっと人気の柄は、今後100年、200年以上継続して織っている。それで100年、200年間耐えてきた柄なんや。それは今考えてひょこっと作った柄なんかとは全然違う。

そういう点で、難しいと思うよ。新しい柄を考えるというのは。それをさ、どういうふうにするかっていうとこんな感じ。

これね、木綿の柄。弁慶の変形です。

Q:それは生地を提供して作ってもらってるんですか?

A:うん、向こうが作ってくれる。これ洋服屋さん、よう売れとるよ。

私のところは昔のがらをひっぱり出してきて木綿の着物として提案しています。京都の問屋が全国の小売店で展開をして、そのお客さんが着た着姿をブログにアップしていただいています。

だからそういう点でその生き残りをかけていろいろなところと手を組んでやってる。自らその商品を作るのはやめてる。なぜか?専門家に任せたほうがよっぽどええもん作ってくれるからや、うん。

そんで最近織ったのがこれや。

首巻き。

Q:着物にはちょっと薄すぎですかね?

A:いや、これで着物つける人おるよ。夏の着物のやつ。

ん、だけどまぁ着物を着る人が少ないから、三重県とかね。だけど、全国で見たらかなり多いよ。だからそういう人がおるうちはまぁ、続けられるかもわからんけど。20代の人はまた着物きたいって言い出してる。

着物着る人増えてきたんよ。三重県ではないけど。そうやってみんなで着てくれる。それから今は同じ柄をリピートしない。同じ柄は二度とやらない。

前から同じ着物の人が歩いてこられたら嫌やだと思います。柄を一回ごとに変えていく。20反から30反ワンロット生産したら終わり。もう二度と生産しないようにしてます。

Q:貴重なお話をありがとうございました。

伝統工芸品

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伊勢木綿
店名
臼井織布株式会社
事業内容
伊勢木綿製造・販売
代表者
臼井成生
所在地
三重県津市一身田大古曽67
電話
059-232-2022
FAX
059-232-6515
定休日
土・日
URL
http://isemomen.com/